安倍元首相の国葬、何が問題になった?
安倍晋三元首相の国葬が2022年9月27日、東京の日本武道館で開かれた。世論は賛否に分断され、国会は衆院議院運営委員会に協議会を設置して、決定過程などを検証することにしている。この国葬、何が問題になっているのか。いくつかの論点を整理してみた。
※安倍元首相の功罪の評価については後世にゆだねるべきと思うのでここでは触れない
根拠法がない
安倍元首相の国葬は、元首相の狙撃(7月8日)から1週間もたたない7月14日に、岸田文雄首相が実施を表明した。だが、「国葬」を実施するのに根拠となる法令は戦後の日本にはない。国葬令*1は1926(大正15)年に制定。皇族の他、国家への功労があった者に対し「特旨」(天皇のおぼしめし)によって行われるとしていた。
しかし、国葬令は戦後の1947(昭和22)年に失効。天皇の「大喪の礼」は皇室典範に規定があるものの、その他について明文化された法令はない。このため、何を根拠に国葬にするのかが問題となった。
もっとも、国葬令ができる前も、1883(明治16)年の岩倉具視の葬儀を初めとして、首相経験者らが国葬になった。また、失効後も1967(昭和42)年に吉田茂元首相の葬儀が国葬で実施されており、このときは閣議決定によって国葬の実施が決められている。
経費が高く、算出根拠もあいまい
次に問題となったのが経費だ。国葬での実施を表明した岸田首相は、経費を全額国費で賄うと説明。その費用として、当初一般献花や警備強化などの会場設営費などに約2億1000万円、会場やバスの借り上げ費用などに約3000万円で2億4940万円を予備費から支出すると、8月26日の閣議決定で決めた。
しかし野党が「総額を出せ」と求めたこともあり、政府は9月6日に費用の概算を公表。それによると、各地から警察官を派遣するための旅費や警察官が待機するための建物の借り上げ費など警備費約8億円▽滞在中の車両の手配や同時通訳の手配など外国要人の接遇費約6億円▽当日の医師や看護師の派遣が決まると救護費数十万円——の総額約16億6000万円とした。岸田首相は、「状況が少しずつ明らかになってきた」「できるだけ丁寧に見通しを示す観点から数字を示した」と説明した。
ちなみに国葬終了後、国は国葬にかかった経費を、事前の概算を約4億円下回る12億円台半ばとなる見通しだとしている。内訳は、式典の経費約2億4000万円(うち企画や演出などに1億9000万円、会場(日本武道館)の借り上げなどに約5000万円)▽警備費約4億8000万円▽接遇費約5億1000万円▽自衛隊の儀仗隊の車両借上げ費など約1000万円。果たしてこれが適切だったかどうかについても今後の検証の対象となるだろう。
国会に諮っていない
加えて、これらのことを国会にも諮らず、閣議決定だけで一方的に決めてしまったことも問題となった。前述のように前回の吉田元首相の国葬も閣議決定で実施が決まり、国会の審議を経ずに決まる予備費から支出することを国葬の前日に決めている。このことに関しては翌年の衆院決算委員会で野党から「予備費は内閣の責任において支出するといっても、何らかの根拠がなくてはいけない」などとして批判を受けている。
経費については、国葬令を制定するために枢密院で審議した際にも問題となっている。そこでは、緊急の場合は予備金などから支出する場合もあるが、議会開会中であれば予算案について議会の協賛を経て勅書を発する手続きを取る、ということが確認されている。基本的には議会の協賛が必要だと考えられていたのだ。
これらの論点について、さまざまな立場や意見があり、世論は分断されたままとなっている。岸田首相が民主主義を守り抜くことを国葬の大義の一つとするならば、踏みうる限りの手順を踏み、国民の合意を得ながら国葬を実施するべきだったのではないかという気がする。本当に岸田首相の言う目的にかなった国葬だったのか、今後の検証の中で改めて問われることになる。
参考資料
NHKホームページ
宮間純一「国葬を考える」(『Journalism』2022年9月号)